1 うつつのまぼろし

5/5
前へ
/28ページ
次へ
『わたしがやってあげるから、じっとしててよ!』    私の思考が停止する。  言葉を放ったのは、ミラベルだ。  だが、己の鼓膜を揺らし、脳内に響く声は全くの別人。  ここにはいない過去の人物のものだった。  懐かしい記憶の断片があふれ出て、見えもしない光景が、物が、人が、視界の中に移りこむ。  男がつけると思えない、青いサテンのリボン。  ツインテールの巻き毛の少女、のような容姿の女性。  教室。  運動場。  そして大きく立派な門。  その横に掲げられたプレートにはフォディーナ学院と刻まれていた。  私は無意識に笑い声を上げた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加