ジャーナリズムでなら人を殺しても裁かれない

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ジャーナリズムでなら人を殺しても裁かれない

その音は、世界を突き刺す。それは掴めないものを掴む音であり、隠された事実を暴くもの。一度その音が世界に噛み付けば、そこに写る者は決して逃れられない。そう、壊れるまで。 サクラは息を殺し、レンズ越しに“それ”を観ていた。その四角い小さな世界に写るのは、大物横浜市会議員と、その人がいつもひいきにしているという高級料亭。黒塗りの車が停まり、運転手が回り込んで後部座席のドアを開ける。 そして、シャッターは世界に噛み付いた。 世界は突然、「超能力者」で溢れ出した。何故こうなったかは不明。それから毎日と言っていいほど“妙な事件”が起こる。そんな沸々としていた小さなものは、すぐに“怪物”と化した。1つ目は「テロ」。 写真週刊誌、週刊ターコイズの出版社、真壁(まかべ)出版。“一応”フリーランスである村崎(むらさき)サクラの“拠点”。そして今日もまた、サクラは真壁編集長の下へ帰還した。何も言わずに、サクラはカメラと真壁のパソコンをケーブルで繋いだ。 「お、居たねぇ、風巻下(かざまきした)議員。それから表紙のアイドルに、中身のスチールな。うし、議員のスクープは5万ってところで」 2つ目は「ヒーロー」。悪人であれば超能力はテロに使われ、善人であれば成敗に使われる。ごく自然な事だ。どこかでテロが起き、どこかで悪人が退治される。それが今の日本、というか地球。そして3つ目が「戦争」。超能力者は最早徴兵され、政府によって戦場へと送られる。 しかし、私にはそんなのどうでもいいのだ。 「どうも」 「おーい、北条(ほうじょう)。スチール来たぞ」 「はぁーい」 いつも気の抜けた返事の北条さん。正社員ライターの1人で、私の撮った写真スチールや聞き込み情報を担当してくれている。けど一度キーボードを叩くとまるでピアニスト。いやそれはかっこよすぎか。 「はいレコーダー」 「おっす。・・・おほっ良く撮れてやんの。おお、やっぱり『レインボーハート』の子達可愛いなぁ、ほんとジェダイは良い仕事するよなぁ」 「だから私ジェダイじゃないですから、ライトセーバーブンブンしませんから」 「あれ、サクラまだ何か撮んのか?」 歩き出した矢先、真壁がそう声をかけてくる。 「はい。風巻下議員近辺を、ちょっとストーキングしようかなと」
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