弁明 か 言い訳 か

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「どうして、あの作品を投稿したんだい?」  痛い所を突かれた。黙っていても、余計な誤解を招くだけなのだろう。私が『雲泥』を投稿したことを知っていて、私を訪ねてきたならば、きっとこの人は、コンクールの関係者なのだろう。今更隠しだてをしても、言い訳にしかならないように思えた。 「眠ったままじゃ、もったいないから。あんないい作品なのに、姉さんの作品よりずっと面白いのに。作品が可哀想だったから」  ありのままに述べようと思った。そうしたら、自然に口から言葉が漏れていた。そうだ。きっとこれが、私の本心なのだ。  大好きな作品を、大好きだって知ってほしい。もっと多くの人に知ってほしい。私は純粋に、そう思っていた。 「盗作だよね、こんなの。きっと皆は、私の文章が下手だから、人の作品を盗んだんだって、きっと言うだろうね」  それでも、私も物書きの端くれだ。自分がタブーを犯したことは、痛いくらいに分かっていた。大好きだからと言って、決して許されることじゃない。他に方法があったと責められれば、何一つ反論など出来ないだろう。そもそも、出来心があってしたことではないのかと問われても「そんなこと無かった」と言い切れる自信は無かった。 「でも、そうじゃないんだ。信じてくれなくて良いよ。私が下手なのも、許されないことをしたのも本当だから。だけど……、好きなの。『枯山水』の作品が好きで、『雲泥』が大好きで」 「だから、誰かに知ってほしかった」  言い訳に過ぎない。分かっていた。それでも、口にせずにはいられなかった。いつの間にか雲ははれ、夜空には幾つもの星が広がっていた。自然と熱くなってきた瞼の裏を冷ますように、ずっとずっと遠くに目を凝らし続けた。
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