雲泥

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「彼は沈痛な話の方が得意だったんだよ。何をやってもダメなものってあるだろう?」  そうかもしれない。私だって、出来ないことばっかりだ。 「でも彼は、それに甘んじなかった。だから『雲泥』を書いた。最初に結末から書いていた。幸せな結末からね」  そうだった。最初に読んだ『雲泥』は、結末はあったが、話の終盤が抜け落ちていた。今、それをハッキリと思い出した。 「でも、彼には起承転結の転の部分が、どうしても書けなかった。だから、あの作品は完成しなかった」  どうしても書けなかった。その一言が、頭の中で何度も響いていた。 「でも、君には紡げた。君には、彼奴には書けない物語が描けるんだ。君の、君だけの物語が」  どうしても書けなかった。私には書けた。二つが絡まり合って、私のずっと深いところまで沈んでいくようだった。  熱い何かが込み上げてきて、どこか、じっと見つめられる星を探した。目に留まった星は、目を凝らさなければ消えてしまいそうな、小さな小さな星だった。 「君は、小説を書くことを辞めてしまうのかい?」  どうしようか。どう答えようか。言葉が出なかった。  見上げた空に浮かぶ月は、迷惑なぐらい美しく、凛と輝いていた。  約二ヶ月後『高校生新人賞』の結果が発表された。連なる入賞作品の中に『雲泥』の二文字は無かった。 大賞 『色の無い世界で』 作 矢木野 彩 優秀賞『日は沈めど』   作 華城 矢代 ………… 入選 『極彩色の空』  作 矢木野 美弥 『雲泥』         作 枯山水・雀  友人の天才作家との雲泥の差に打ちのめされ、小説を書くことを辞めた主人公が、ある作品に出合うことで自らを見つめ直し、再び小説を書くことへ向き合っていく物語。
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