0人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「お父さん! 今、病院から電話が! 沙江の意識が…………」
ふん、今日はやけに家の中がうるさいな。
クロは、煩わしい音を追い払うべく耳をピクリと動かした。だがまあいい。彼は今、とても満ち足りた気分だった。
ついさっき、「サエのヒザの上でうたたねをしたい」というクロの願いが受理された事を知った。やはりな、とクロはひとり悦に入る。あの包みは想いがこもった良い匂いがしたから、対価として十分ふさわしいと思っていたのだ。
それにしてもヒトという種族は、どうも頭が悪くていけない。奴らはつくづく不自由な生き物だなと思う。
あれほど分かりやすくしてやったというのに、なかなか選ばないから焦ってしまった。あの願いのリミットは今日の日没まで。沙江がギリギリで手放す決心をしてくれて本当によかった。
ふふん、しばらく待てば、また柔らかな沙江の膝を堪能出来るだろう。それまではこのクッションで我慢するしかないが。
まったく。ヒト種も普段から昼寝くらいすればいいのだ。いつもあくせくしているから、こうしてワタシが面倒を看なくちゃいけない羽目になるのだ。
ピコンと音が鳴る。
「たべる ねる あそぶ あくび」
クロは宙を見つめ、視線で「ねる」と「あくび」を選択してから、ほこほこと昼寝を再開した。
最初のコメントを投稿しよう!