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――私、一年前のバレンタインの日に交通事故に遭って、それで…………。
その時初めて、沙江は自分の体が透けている事に気付いた。
「うそ……あの『すてる』ってコマンド……」
捨てたんじゃなくて、彼の気持ちを確認出来た、その対価ってこと? 一年も前のチョコだからいまさら渡せるわけがないし、失っても惜しくないけれど。もしかして、彼は一年間ずっと図書館に通い続けていたのかな。
知らず、涙が滲む。いやだな、私、今こんなに幸せなのに。頬を流れる涙はちゃんと熱く感じられるのに、体が透けているなんて。しかも、こんなぽわぽわした気持ちのまま終えるなんて。
どうにかして、彼に伝える方法は無いのかな。一言でもいいから。「ありがとう」って伝えるだけでいいから……。
ああ、彼ともっと話したいな。家族にもこの不思議な出来事を話したいな……と沙江は強く思った。
沙江の体は徐々に薄くなり、キラキラと天に昇るように消えていった。
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