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「貢物ナンバー、K325φ5462-26……あっ!」
肩越しに手が伸びてきて、振り向けば――手の主はそれをパクリと食べてしまっていた。
「お前は少し世俗の事を学んだ方がよいぞ。これは貢物ではなく、『ばれんたいん』というのだ」
ふふん、と主は自慢げな顔をして去っていく。
主はどうしてこう威厳に欠けるのか。しかも口をもぐもぐさせている時点で、さらに半減だ。
手元のリストに目を戻すと、いつの間にか「受理」のところにチェックが入っていた。その隣の欄を見て、ほう? と思う。奉納者がヒトではないというのは珍しい。しかもこれは、渡来の甘味か。我も「ちょこれいと」が何かくらい知っているのだ。
彼は、どうだと言わんばかりに、主の去った方向を見遣った。
ふむ、昔はウサギが己が身を火に投じて捧げたりしたものだが、時代も変わったものだ。まあ、甘味の方が主もお喜びだろうが。製造日の欄を見てちらりと思う。我が主も徒人のようにお腹を壊すとかすれば、可愛げがあるものを。
つけつけと頭の中で並べ立ててからようやく気付いた。ああ、この受付期日、通常の手続きをしていたら間に合わなかったのか。だから、あんな風に横合いからわざと手順を飛ばして……認めたくはないが、粋な真似をなさる。
主の僕は受理されたリストをさっと仕舞って、大量の貢物の山へと戻って行った。
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