第一章 サクラ-2

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私はコートの前ボタンをしめ、 襟を立てた。 森村さんはスーツのジャケットに、 マフラー一枚でもっと寒そうだ。 私が 「寒くないですか?」と尋ねると、 彼は 「寒いですよ」と笑った。 ふと、 森村さんの右手が私の左手に触れた。 次の瞬間、 彼の手が私の手をふわりと包み込む。 反射的に私の手はこわばった。 まるで石のように、 感覚をすべて遮断してしまった。 違う。 そう、 強く感じた。   これじゃない。 私の心の奥底に沈んでいた声が、 身体中に響く。 改札に着くと、 森村さんはすぐに手を離した。 私はうつむいていたため、 その時、 彼がどんな顔をしていたのか知らない。 彼は何も言わずに、 改札を通り抜けて行った。
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