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私はコートの前ボタンをしめ、
襟を立てた。
森村さんはスーツのジャケットに、
マフラー一枚でもっと寒そうだ。
私が
「寒くないですか?」と尋ねると、
彼は
「寒いですよ」と笑った。
ふと、
森村さんの右手が私の左手に触れた。
次の瞬間、
彼の手が私の手をふわりと包み込む。
反射的に私の手はこわばった。
まるで石のように、
感覚をすべて遮断してしまった。
違う。
そう、
強く感じた。
これじゃない。
私の心の奥底に沈んでいた声が、
身体中に響く。
改札に着くと、
森村さんはすぐに手を離した。
私はうつむいていたため、
その時、
彼がどんな顔をしていたのか知らない。
彼は何も言わずに、
改札を通り抜けて行った。
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