第一章 サクラ-1

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私が実家に帰るのは、 正月以来である。 今年のお盆は仕事が立て込み、 休みどころではなかった。 今回もハルのことがなかったら、 わざわざドレスのために帰ることはなかっただろう。 家族仲が悪いわけではなく、 東京から実家までの時間と費用を考えると自然、 そうなるのだ。 新幹線、 もう少し安くならないかなあ。 車内ではラジオが流れていた。 普段、 音楽をあまり聴かない父は車を運転するときいつもラジオをつけている。 私が小さな頃からからそうだったので、 自然、 私もラジオを聴くことが習慣になった。 中学・高校のときは周りの子が毎日テレビを見るなか、 一人だけ家でラジオを聴くほどだったのだ。 しかし、 社会人になってからその習慣もなくなった。 東京に出てからは車に乗る機会も少なくなったし、 何より、 忙しかった。 ラジオからは視聴者が選んだ思い出の曲が流れ始めた。 聴いたことはあるけれどタイトルの思い出せない曲たちが、 車内の空気に馴染んで心地良い。
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