第一章 サクラ-1

14/22
前へ
/118ページ
次へ
私たちが窓からグラウンドを覗き込むと、 泥だらけの野球部員たちがベンチに集まっている。 彼らの近くに並んで立っている女子マネージャーのなかに、 ポニーテールでひと際スタイルの良い女の子がいた。 山下さんである。 あの日以来、 クラスの違う彼女と私は顔を合わせることはなかった。 「俺、 あいつ嫌い」 ハルが隣でぼそっと呟いた。 彼はいつもの彼とは別人のような表情で山下さんをにらん でいる。 誰かに気付かれてしまうのではないか、 とこちらが心配になるくらい嫌悪感を露わにしていた。 「野球部の先輩と付き合ってるくせに、 何かとトモに話しかけるんだよな」 山下さんが先輩と付き合っていることは、 生徒のほとんどが知っていた。 彼らが恋人であることを隠していなかったこともあるが、 二人とも人気者だったからだ。 特に、 山下さんは美人でスタイルが良いうえ、 しっかり者だったため、 多くの男子が彼女に恋をしていた。 そんな女の子に話しかけられることを喜ぶ男子は多いが、 ハルのように嫉妬心を燃やす男子は彼以外いないだろう。 「あいつにだけは負けたくない」 自分が男であることも、 相手が学年一モテる女子であることも関係ないというような口ぶりだ。 ハル、 すごいな。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加