プロローグ

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高校卒業から十年経ったはずだが、 携帯から聴こえるハルの声は高校時代とほとんど変わっていない。 その声を聴いていると、 まるで高校の頃に戻ったような心地がして、 あの時の感情までよみがえるようだった。 「トモの結婚式のこと、 聞いた?」 トモはハルの幼馴染で本名をトモキと言う。 私たちとは高校の同級生だった。 野球部のエースで中性的なハルとは対照的に男の子らしい無口な子だった。 確か、 高校卒業後にマネージャーの山下さんと付き合ったと噂で聞いたことがある。 「…しつこいって思われるかもしれないけど、 こんなこと聞いてくれるのはサクラしかいないからさ」 ハルは男だが、 同性の幼馴染であるトモのことが好きだった。 きっかけは聞いていないけれど、 物心ついたときから好きだったらしい。 最初にそれを知ったときはとても驚いた。 私の周りには他に同性を好きになる友達はいなかったし、 何となくドラマや小説の中だけのことだと思っていたからだ。 加えて、 私はハルに好意を持っていた。 そのため、 ハルの告白は私の失恋でもあったのだ。 三年前、 高校の同級生の結婚式に出席したとき、 偶然、 ハルと再会した。 いや、 私は密かに彼に会えるのではないかと期待していたのだ。 その意味では、 私の恋はまだ失われていないのかもしれない。
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