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声を掛けると、
母は振り向いて「お帰り」と言ったが、
すぐに前を向いてしまった。
何を作っているのかと近くに行って覗き込むと、
フライパンの上に黄色の薄い膜がはっていた。
膜はところどころ空気を含んでふくらんでいるが、
菜箸で丁寧につぶされると、
また新しい膜をはっていく。
フライパンの隣では深く大きな鍋ににんじん、
しいたけ、
れんこんといった小さく刻まれた野菜が、
煮込まれて茶色のかたまりになっていた。
今は粗熱をとっている最中らしい。
「サクラ、
帰ってきたばかりで悪いけど、
テーブルの上のごはんに桜でんぶをのせてくれる?」
母に言われるままに冷蔵庫を開けえる。
目的のものを取り出そうとすると、
一番下の棚に刺身といくらが並んで置いてあるのが見えた。
どうやら、
今日はごちそうのようだ。
私が桜でんぶをのせ終わると、
野菜の煮物、
刻んだ大葉、
さしみ、
いくらの順に積み重ねられ、
最後に錦糸卵が散らされた。
我が家のちらし寿司のできあがりである。
父、
母、
私の三人で食卓を囲む。
豆太郎はおこぼれをもらおうと私の足元で待ち構えていた。
彼はちらし寿司が大好きなのだ。
酢飯を少しだけやると、
おいしそうに食べ始めた。
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