第一章 サクラ-1

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母が私と豆太郎のやりとりを横目に見ながら、 「また、 犬に人間の食べ物をやって。 身体に悪いのよ」という顔で私を責めた。 いつも思うのだが、 この物欲しそうな豆太郎を前にしてどうやって食べ物を分け与えないことができるのだろうか。 私には一〇年経ってもできそうにない。 豆太郎はもっと欲しいという顔で、 今度は父の足元にすり寄って行った。 母は呆れた顔で 「ドレス、 クリーニングに出しといたわよ。 でも、 サクラ、 新しいドレス買って持っているんでしょう?なんでわざわざ、 昔のドレスを着るの?」と、 尋ねてきた。 母の問いに、 私は少し考える。 「先月の結婚式でも着たから、 飽きちゃって。 たまには違うドレスもいいかなって」 「何だ、 先月も結婚式があったのか。 大変だな、 お祝儀」 父が心底、 気の毒そうに言った。 しかし、 大変なのはお祝儀だけではない。 誰に招待状が届いていて誰に届いていないのか、 出席するのか欠席するのかといった式前のリサーチに始まり、 誰が結婚して誰が妊娠して、 はたまた誰が離婚したのかという宴会席でのトーク、 2次会に参加するのかしないのかといった水面下のやり取り。 こうした面倒事を挙げれば、 結婚式の右に出るイベントはそうそうないだろう。
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