第一章 サクラ-1

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二〇代前半までは結婚式をそれなりに楽しんでいた。 普段着ることのないドレスを着て、 おいしい料理を食べ、 非日常の空間で結婚という幸せな儀式に立ち会う。 それはまだ、 結婚が自分にとっていつかするものだった時代だ。 しかし、 二〇代後半からは結婚をより身近に考え始める。 「いつか」ではなく「いつ」するのかが重要になるのだ。 そんなことを考えながら出席する結婚式が、 楽しいわけはない。 もちろん、 結婚自体は喜ばしいものだし新郎新婦を祝いたいという気持ちはあるのだが、 それ以上に結婚という見えない圧力の方が強いのだ。 「ま、 お互い様だからね。 こっちが出したら、 今度は向こうが出してくれるのよ」 「そうだな。 俺らのときもそうだった。 お付き合いってやつだな」 父がそう言ってお吸い物をすすると、 母もうなずきながら錦糸卵のたくさんのった酢飯を口に持って行った。 こういう時、 私は自分の両親のおおらかさ(何も考えていないだけかもしれないが)が有難いと思う。 巷では、 両親に結婚をせっつかれる年頃の娘・息子は多いと聞く。 しかし、 私は今年、 二九歳になるが、 そういった話をされたことは今まで一度もない。 父も母も娘の結婚について心配していないわけではないと思うのだが、 まあ、 勝手にやりなさいというスタンスだ。 そんな両親だから結婚に対する焦りがある一方で、 焦らないでゆっくりやっていこうという気持ちもあるのである。   食事が終わりリビングのソファーで寝そべっていると、 豆太郎がやってきた。 昔は膝にのせてよくテレビを見ていたが、 今は無理だ。 彼は大きくなり過ぎた。 私は豆太郎の頭を膝ではさむ形で、 テレビを見ることにした。
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