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第一章 サクラ-2
三、
香水
森村さんとは一ヶ月前、
友人の結婚式の二次会で知り合った。
彼は薬品関係の企業に勤めているらしく、
私より三つ年上だ。
とりたててカッコいいわけではないが、
物腰が柔らかく落ち着いている。
パーティー会場の外で偶然一緒になり、
話が盛り上がった流れでそのまま連絡先を交換した。
何度かメールのやり取りをし、
今夜、
食事に行くことになったのだ。
「で、
何でパーティー会場の外なわけ?」
目の前に座る真紀子がサンドイッチを口に持っていきながら尋ねた。
コンビニではなくオシャレなお惣菜屋さんで買ったサンドイッチである。
サンドイッチはサラダとともに、店のロゴが入った茶色の紙袋に入れられていた。
今は、
会社の昼休み中で私たちは休憩室で昼食中だ。
休憩室といっても机が五つとスチールの椅子が数脚あるだけの簡素な部屋である。
電子レンジは二台あるうちの一つが壊れているし、
ポットもお湯の出が悪い。
「私、
ああいう大勢で盛り上がる場が苦手なの。
だから喫煙所に避難してた」
「え、
あんた煙草吸うっけ?」
「ううん。
喫煙所の近くにソファーがあるからそこに座ってた」
森村さんは喫煙者らしく、
喫煙所から出てきたばかりの彼からは煙草の匂いがした。
私のまわりに煙草を吸う人は多くないため、
銘柄はわからないがおそらくかなり強めのものだろう。
彼の周囲の空気を舐めたら、
苦くて少し辛みのある味がすると思う。
「ふーん。
ね、
彼のどんなところが好きなの?」
真紀子がにやにやしながら、
尋ねる。
どんなところ、
と言われても考えたことがなかった。
話の流れで食事をすることになっただけだし。
私は黙ってしまった。
「あら、
ノリ悪いわね。
ま、
今夜は楽しんで」
真紀子が私のスカートの裾を持ってひらひらとさせた。
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