第一章 サクラ-2

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私は意を決して、 周りに聞こえないよう出来る限り小さな声で告白した。 「…私、 キスできないと思う」 真紀子は一瞬、 驚いた表情をしたがすぐに口を閉じて難しい顔をした。 沈黙が辛い。 「それって、 好きじゃないってこと?」 そういうわけではない、 とすぐに返すことができなかった。 その間がすべてを語っているように思えた。 森村さんは素敵な人だ。 私に対してだけではないかもしれないが優しく、 メールの返信もマメだ。 そのうえ、 とても話しやすい。 しかし、 何かが違うのだ。 そう思う理由は彼にではなく私にあるのだと思う。 「今はまだいいけど、 煮え切らない態度をとり続けるのは向こうにも迷惑だよ」 真紀子はいつも率直にものを言う。 しかし、 今日の彼女の言葉は率直を通り越して辛辣だった。
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