第一章 サクラ-2

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彼女は最後に髪型を整え後ろ姿まできちんと確認し、 ベージュの小ぶりなバッグを腕にかけて颯爽とトイレから出て行った。 ふわり、 と甘い香りが私の鼻先をかすめる。 おそらく、 女性ものの香水だろう。 甘くて柔らかい、 途中からスパイシーでフェロモンのようなものに変化するその香りは私の鼻を通って脳みそを刺激した。 昔、 どこかで嗅いだことのある香りだが、 どこだっただろうか。 森村さんとの待ち合わせは私の会社と家の中間付近にある駅だった。 その駅は森村さんの会社から近く、 最近、 飲食店やマッサージ、 ネイルなどのショップが次々と出来ている。 開発地域というやつだ。 私の家は都心より少し離れたところにあった。 通勤には少し時間がかかるが、 会社の近くだと家賃が高すぎるためやむなくその場所を選んだ。 そういった人は他にも多くいるらしく、 通勤時の電車は文字通り人がすし詰め状態で乗っている。
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