第一章 サクラ-2

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「ハルは男だから今のハルなんだと思う」 私はそう言った。 この言葉で彼をなぐさめることができるかはわからないけれど。 「私は、 今のハルが良いよ」 ハルは顔を膝にうずめたまま私の言葉を聞いていたが、 突然、 顔を上げて私を見た。 目が少し赤くなっている。 「オレはオレでトモを好きになったんだ」 彼はためらいがちに言葉を続けた。 「告白して友達でなくなるくらいなら、 しないほうがいいんじゃないかってずっと悩んでた。 正直、 今も悩んでる。 でも、 オレは気持ちを伝えたい。 トモに迷惑かけるかもしれないけど、 男だけど、 でも伝えたいんだ」 ハルはまるで自分で自分の気持ちを確かめるように、 ゆっくりと言葉を紡いだ。 チャイムが鳴った。 もう昼休みが終わる。 「教室戻ろう」 ハルは立ち上がった。 「私、 トイレ行ってから戻るから、 先に行ってて」 私が言うと、 ハルはわかったと言って私に背を向けた。 ふと、 彼が立ち止まって私を見た。 「ありがとな、 サクラ」 そう言って笑ったハルの表情はいつもの彼のものだった。 私はそれに安心し同時に胸の奥をぎゅっと掴まれたような心地がした。 教室へと戻って行くハルの後ろ姿を見つめながら、 私はさっきまで彼がいた場所に腰を下ろす。 かすかに残った香水の匂いは私をゆっくりと包み込み、 やがて消えていった。 四、 距離感 二人でデートに行った後も、 私と森村さんは連絡を取り続けていた。 メールが主だがたまに電話もする。 二人とも仕事が終わる時間が遅いことが多かったため、 メールの方が都合が良かった。
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