第一章 サクラ-1

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第一章 サクラ-1

一、 レモンティー 日曜日。 空は高く澄んでいて、 絶好の体育祭日和である。 吹く風も心地よく、 一年の内で一番過ごし易い季節だ。 しかし、 残念ながら、 今年の体育祭は先週終わってしまったらしい。 私とハルは高校のグラウンドわきにあるベンチに座っていた。 ベンチは最近、 塗り直したのか真っ白だ。 ただ、 ベンチの脚が石の上にあるのか座るとガタガタ揺れる。 グラウンドでは野球部と陸上部が練習をしていた。 少し離れた隅の方にはンドボール部もいる。 花形の部活がグラウンドを広々と使用し、 残りのマイナー勢が狭い面積で縮こまって練習する風景は今も昔も変わらない。 ハルは青のデニムジャケットを肘までまくり、 それよりも少し色の濃い細身のデニムをはいていた。 デニム・オン・デニム。 私には絶対できないおしゃれコーデだ。 彼は昔からおしゃれだった。 スタイルも良くモデルのようなのは今も昔も変わらない。 ただし、 細身のため男性ではなく女性のモデルなのだが。 ハルは陸上部のエースだった。 得意種目は競歩である。 昔の血が騒ぐのか、 彼は先ほどから競歩の練習をする部員を熱心に見つめていた。 ときどき、 「おお!」「良い筋肉だな~」などと呟いているのが可愛らしい。 私が思っていたよりも、 ハルは元気そうである。 私は彼の隣で、 さっき自販機で買ったレモンティーの紙パックを開けた。 五〇〇ミリリットルの紙パックは真黄色にカラーリングされ、 果汁のあふれ出るレモンとキンキンに冷やされているだろう紅茶の入ったグラスが描かれている。 果汁一%なのに。 一口飲むと、 甘ったるい砂糖の味とどこまでも人工的なレモンのさわやかさが舌いっぱいに広がった。 それから口中を甘く染めた液体は、 ゆっくりのどを流れていった。
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