第二章 ハル

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俺とサクラはグラウンド横にあるベンチに移動した。 そこには藤棚があり日陰になっている。 ベンチも新しいらしく真っ白な表面に汚れはほとんど見られない。 ただ、 身体が動く度に椅子の脚もガタガタ動くのが気になる。 グラウンドでは部活生が練習に励んでおり、 その中には俺が昔、 所属していた陸上部もいた。 高校時代、 俺は陸上部で競歩の選手だった。 競歩はトラックや道路上で決められた距離を歩く陸上種目で、 フォームを維持しながらタイムを競う。 マラソンなどの競技と違い歩いているため楽そうに見えるが、 フォームが崩れてしまえば失格になる過酷なスポーツだ。 「お、競歩じゃん。 懐かしいね」 隣でサクラがレモンティーを飲みながら、 楽しそうに言った。 「ハル、強かったもんね。 今でもやるの?」 「やらないよ。 移動は車ばかりだし」 サクラはニヤニヤ笑いながら、 「おじさんになったね」と茶化して言った。 彼女はいつも、そうだ。 生徒会の書記係をするほど真面目で勉強もよくできるが、 すぐに人をおちょくるクセがある。 そのギャップが面白くて、 俺は彼女が大好きだった。 「サクラ、 昔からそれ好きだよな」 俺は彼女の右手にあるレモンティーの紙パックを指さして言った。 「高校のときもよく自販機で買ってたよな。 しかもレモンティーばっかり。 レモンティーがないときはミルクティー。 次がストレートティー」 サクラは少し恥ずかしそうに、 「…よく覚えてるね。 ここの紅茶甘ったるいからさ、 レモンティーが一番飲みやすいんだよ」と言った。
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