第一章 サクラ-1

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「サクラ、 昔からそれ好きだよな」 突然、 ハルに話しかけられた。 飲み込んだレモンティーが少し逆流してしまう。 「高校のときもよく自販機で買ってたよな。 しかもレモンティーばっかり。 レモンティーがないときはミルクティー。 次がストレートティー」 「…よく覚えてるね。 ここの紅茶甘ったるいからさ、 レモンティーが一番飲みやすいんだよ」 ハルが私の好きなものを知っていたことが嬉しくて、 緩んでしまいそうな頬を必死に抑える。 ふーん、 と相槌を打ってハルは嬉しそうに言った。 「俺はミルクティー派だった。 トモは甘いのが苦手だったから、 ここの紅茶は飲めなかったんだ」 彼の名前が出たことで、 気まずい沈黙が流れる。 そもそも、 私たちが今日会う原因、 もといきっかけを作ったのは彼である。 だから、 避けるべき話題ではないのだが、 どうしても自分からその話題を振ることははばかられた。 私は意を決してハルに尋ねる。 「ハルはさ、 まだ…好きなの?」 ハルは私の目を見て「当たり前だろ」と短く言った。 その姿はいっそ潔い。 ハルはすごい。 こんなに堂々と素直に人を好きと言えるなんて。 私が誰かを「好き」とはっきりと強く思えたのは、 いつだっただろう。 ここ最近は、 というより大人になってからはなかったような気がする。
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