第二章 ハル

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昨日まで考えていたセリフが、 突然、意味のないものに変わる。 ついさっきまで大きかった心臓の鼓動も、 急に静かになった。 緊張していた自分、 少しでも期待していた自分、 どちらもひどく滑稽に思える。 トモは欠片ほど、 俺の気持ちに気付いていない。 もちろん、 俺が今からすることにも気付いていないだろう。 俺はポケットから手を抜いた。 片方の手をトモに差し出す。 彼は訝しげな顔をしていたが、 おずおずと片方の手を出した。 「今までありがとう。 大学でも元気にやれよ」 手を握ったまま、俺は言った。 「おお」 トモは短く返事をした。 「じゃあ」 そう言って俺は手をひっこめ、 去ろうとした。 「大切な話って?」 トモに呼び止められ、 「今度、言うよ」と答えた。 突然、トモに肩をつかまれ彼の方を向かせられる。 「言いたいことがあるならちゃんと言え」 すぐ近くにトモの顔があった。 「聞く」 言葉はぶっきらぼうだが、 優しい声音に思わず泣きそうになる。 ああ、そうだった。 俺はトモのこういうまっすぐで、 優しいところに惹かれていたんだった。 俺は少しのあいだ彼を見つめ、 そして言った。 「好きだ」 トモの目が見開かれる。 「友達としてじゃない。 ずっと、好きだった」 声だけじゃなく手も足も震えている。 身体がまるで自分のものではないようだ。
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