第三章 トモ

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第三章 トモ

窓の外に目をやると、 街路樹が見えた。 葉は黄色や茶色に色づいていて、 風が吹く度にわさわさと揺れている。 木の根元には枝から落ちた葉が、 まばらに散っていた。 室内に目を戻すと、 デスクに山積みになった資料とさっきからちっとも進んでいない企画書の画面、 飲みかけのコーヒーが5分前と変わらずそこにあった。 俺は小さく息を吐いて、 パソコン画面に向き直る。 社会人になって約七年。 仕事にも慣れ、 ようやく新規の仕事も任せられるようになった。 今まで営業とは言っても上司や先輩からの引き継ぎがメインで、 前例を大きく逸脱しなければ合格点をもらえていたのだが、 今はそうもいかない。 過去の事例を踏まえ自分の考えを練る。 できあがった企画を相手にわかりやすくプレゼンする。 言葉にすると簡単だが、 取引先に納得してもらえるまで企画の練り直しとプレゼンを続けなければならず、 忍耐と体力がいる仕事だ。   残業も休日出勤も当たり前で、 体力的にも精神的にも辛い状況ではある。 何とか持ちこたえているのは恋人である雪乃がいるからだ。 雪乃は、高校の同級生で部活も同じだった。 野球部の選手とマネージャーという関係だ。 高校時代は恋人同士ではなく、 卒業後しばらくして付き合い始めた。 今年、入籍して冬には結婚式を挙げる予定である。 雪乃は、高校で誰もが憧れるマドンナだった。 野球部でなければ、 俺が彼女と関わることはまず、 なかっただろう。 俺はあまり喋る方ではないし、 そんな俺を怖いと言う女子も少なからずいた。 しかし、雪乃は違った。 部活中はもちろん、 それ以外でも俺に話し掛けてきた。 彼女は世話好きなところがあるから、 俺を放っておけなかったのだろう。
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