第一話

23/28

57人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
「ここは危ないから、もう帰ろう」  背中から包み込むようにして彼女を支え、足早に公園から去る。  何を飲み込んだのかわからない乙川は、涙で眼鏡を濡らしながら、口元を押さえたまま。  せっかくのデートだったのに、最悪な事態となってしまった二人は、互いに複雑な心境で言葉を交わすことなく歩いているうちに、いつの間にか乙川の家に着いていた。 「じゃ……明日、病院に行きなよ?」  心配そうに顔を覗き込むと、彼女は小さく頷いた。 「送ってくれてありがとね。また明日」  力ない笑みを浮かべて面堂に手を振ったあと、家の中へと入った。  付き合い始めて三か月。  そろそろ交際に進展があってもいい頃かと思い、勇気を振り絞ったというのに、予期せぬ出来事で台無しになった乙川は、心身共に疲れ切り、そのままベッドに横になった。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加