第二話

6/13
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
 百面相を繰り返す彼女に、背後から、「おおおおおはよ」と、声が掛けられた。  振り返るまでもなく、この声の主が誰なのかが分かる。  丁度、彼とのみだらな未来を妄想していた彼女は、ビクリと体を震わせた。  突然声をかけたことで驚かせてしまったと思った彼は、彼女の横に並ぶと、冷や汗を流し、顔を真っ青にさせて両手を合わせた。 「ご、ごめんっ! きゅきゅ急に声をかけたら心臓止まっちゃうよね?」  ピッシリと整えられた髪に、少しの乱れもない服装からは想像もできないほど、落ち着きのない言動をする彼のギャップが可愛くて、悶絶しそうになるのを必死で堪えた乙川は、「心臓はドキドキしてるだけよ」と、微笑んだ。  乙川としては、ここで彼と手を繋いで一緒に登校したいところだが、それは恋愛経験が乏しいどころか、女性に対し、極度に緊張してしまう彼にとってはハードルが高すぎる。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!