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飛行車は、地平線に落ちる太陽を追うように、疾駆していた。
ボウソウ半島の海から離れて、かなりの時間が経過している。
トウキョウ・シブヤシティもはるか後方になった。
セネア・ガーナネットの豪邸も、橘ユ―マの質素な簡易住宅も、とっくに通り過ぎていた。
眼下に街の光が灯りだした。
セネアの提案だった。
デートが終わったら「白骨島」で見せたい物があると言う。
「そんな名前の島なんか聞いたことないぞ。どこにあるんだい?」
ユ―マは飛行車のナビゲーションシステムを起動させた。
「チャミー、自動運転頼む。行き先は白骨島まで」
柴犬画像の眼が何度も瞬きを繰り返した。
<ハッコツトウ、ハッコツトウ・・・データ不足で検索できません。ほかにキーワードはありますか>
「場所は内陸部の深い所。検索しても出てこないわよ、記録から抹消されている地区だから。チャミー、悪いけどあなたにも教えられない秘密の場所なの。また、眼をつぶってちょうだい。手動操縦に切り替えて」
<ユ―マの指示があれば切り替えますよ、ミス・ガーネット>
チャミーは口をぱくぱくさせた。
<私はユ―マからの指示で動くようにプログラムされていますので、申し訳ありません>
「あたしたちが夫婦だとしても?」
<はい。2系統の命令は干渉し合う事があります。どちらかの優先順位を決めたとしても、後にお二人の間でトラブルが生じた場合、私には如何ともしがたいです>
「あ、そう。もういいわ。でも、眼くらいは閉じてよ」
飛行車は自動運転を継続中だった。
周囲は暗くなったが、空道には幾台もの飛行車のテールランプが連なっていた。トウキョウからニホン海への高空層幹線路なのだ。
平均時速350キロ維持区間でもある。
「白骨島といったけ?ニホン海にそんな島はないよ。サドガシマかアワシマしかない」
ユ―マはセネアに顔を向けた。
「秘密の場所なの。あなたにしか教えたくない」
セネアは前方を向いたまま答えた。
「わかったよ、セネア。チャミー、そういう事だから手動に切り替えて」
ユ―マは操縦ボードを撫ぜた。
<承知しました。手動に切り替えます。ただし310キロ以下に速度を落とさないようにして下さい。後続車が迷惑しますから>
手動用ハンドルがユ―マの前にせりあがってきた。ユ―マは軽くハンドルに手を触れた。
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