白骨島(サンクチュアリ)

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 速度計は315キロをキープ中だ。  セネアは服のポケットから小型パソコンを取り出した。  三次元型ナビゲーションシステムがユ―マの眼前に出現した。 「あたしのを使ってほしい。チャミーに搭載してるシステムは記録されてしまうからダメなの」 「そりゃ、いやに慎重だなあ。で、どうすりゃいいんだい?」 「15秒後に幹線路からはずれて」 「わかった。でもこのあたりに島はないよ。まだ山の中だ」  立体ナビゲーション画像は、入り組んだ2000メートル級の山岳地帯を映している。山岳の300メートル上空を、飛行車は滑っていた。 「あたしの言うとおりにして。左11時の方向へ下降10度。減速70パーセント」  セネアは前を向いたままだ。 「了解した」  ユ―マはハンドルを左へ切り、降下を開始した。そのとたん、車内に警報が鳴った。 (コース逸脱、コース逸脱。直チニ修復シテ下サイ、直チニ修復シテ下サイ)  チャミーではない金属的な命令口調の音声が流れた。 「うるさい、黙れ!」  セネアがぴしゃりと決めつけた。 (緊急事態ヲ宣言シマスカ?)  フォン、フォン。  警告音は鳴りやまない。 「宣言なんかしないよお!こいつ、むかつく!」    セネアは運転助手席のタッチパネルを乱暴に操作した。  車内は急に静かになった。  ユ―マは苦笑しながらハンドルと滑空フロートを操った。強力なエンジンブレーキをかけ、ゆっくりと降下していく。  五千燭光のライトが黒い山稜を照らしている。人工の家屋は見当たらなかった。 「もう少し先、もう少し。あと距離10キロメートル」  セネアは闇の奥を凝視していた。 「了解。前進ヨ―ソロ。なあ、こんな場所にホントに島なんかあるのか」  ユ―マは眼を凝らして暗い山並みを見つめた。銀色の光芒が山稜を舌のように舐めていくが、どこまで行っても海は見えてこなかった。 「あるわよ。ほら、あそこ!」 「えー?おい、ウソだろ、山だけじゃないか」 「そうよ、白骨島はあの山の中にあるの。見て、ネコの耳が二つあるでしょ。あそこにつけて」  猫の頭に似たシルエットが紺色の空に浮かび上がった。地理的には島がある位置ではないのだが・・・まだ内陸部である。  それとも湖があってそこに浮かぶ島のことか。  ナビシステムに湖面の反応はなかった。セネアは、ユ―マの不思議そうな横顔を見て、かすかに笑った。
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