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レーサーパンツの下は、チタニウム合金製の大腿筋である。
その周囲は85センチあり、成人男子のウエストとほぼ同じだ。
格闘技自転車のサドルに跨っているのは、メタルスーツに覆われたサイボーグ選手たちだった。彼らが乗りこなすのは、ピストレーサー呼ばれる特殊仕様車である。
一見すると、スポーツタイプの普通の自転車だが、その違いはペダルを踏めばすぐにわかるだろう。常人が踏み出そうとしても、ボルトで固定されているかのように、ピクリとも動かないはずである。
だがサイボーグ選手は軽々と踏むことができる。
一周500メートルのバンクを、全速で疾駆するサイボーグケイリン。格闘技の要素を取り入れた自転車競走である。
コーナーの傾斜角度は38度
傾斜角38度のコーナーを遠心力を利用して走り抜け、60メートルの直線路で決着をつけるサイボーグケイリン。最大時速は100キロを超える。
選手は7名。選手は枠番ごとに色別のメタルスーツとゴーグルを装着して、レースに挑む。
白、黒、赤、青、黄、緑、オレンジ。
メタルスーツには背番号が刻まれている。すなわち、1は白、2は黒、3は赤、4は青というように・・・周回中は位置取りをめぐって激しいバトルになるのだ。
バンクのまわりは3万人が収用できる観客席になっている。
場内は、贔屓選手のサポーターで総立状態だった。
圧倒的な一番人気に推されているのは、2番車のブラックボルト号。対抗人気は6番車のメタルスーツのグリーンサタン号。
レースは賭けの対象になっており、場内は異様な熱気と声援に包まれている。
すでにレースは始まっていた。
一列棒状に自転車が走行している。
シャ―、シャ―。
歓声に混ざって、ペダルを踏む音。
500メートルバンクを8周して決着をつける。周回の前半は位置取りがポイントだ。闇雲に走って簡単に1着が獲れるほどレースは甘くない。速度が上がれば上がるほど、風圧抵抗が強くなって、走行を妨げる仕組みになっているのだ。有利な場所は先頭車の真後ろ。なぜならその位置は先頭車が風よけになり、ほとんど抵抗を受けないからだ。かといってその位置が安泰かといえばそうではなく、まごまごしていると、マクリといって他車に追い抜かれてしまう。追い抜かれないためには自転車を横に振り、敵の進路を妨害し、妨害しながら自ら先頭を走らなければならない。
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