サイボーグ・ケイリン王

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 ブラックボルト号は100パーセントの機械ではなかった。ゴーグルの奥では、人間の脳システムが活動している。  ブラックボルト号を操縦しているのは、ムラカミ・シンザンとういう男の脳細胞だった。  センサーつきの視野からインプットされた情報は、絶え間なく、脳へ伝達されていた。  先頭を走っているのは、赤ゼッケン3番のピストレーサーだ。赤の後ろに黄色5番が、黄色の後ろには青4番車がぴったりと追走している。   その青4番車のサイボーグがペダルを強く踏みはじめた。青い車体を横にもちだして、前へ前へと進んでいく。  青4番の動きを察知したのか、先頭の3番車がアウトコースへ自転車を移動させた。そう簡単に前へ出してなるものか、とばかりに3番車が4番車をけん制したのだ。  今度は大外(おおそと)1番車が一気に踏み込んだ。  それが合図であったかのように、ブラックボルト号以外のレーサーたちがが一斉に動きだした。    ガン、ガン、ガン。  自転車同士が衝突する激しい金属音が響いた。車体を横に振り、体同士をぶつけての競り合いだった。  金属摩擦の閃光が散り、白煙が立ち上った。    観客の声援が一段とエキサイトし、場内は大歓声の坩堝と化した。  贔屓を叱咤する声、罵声、悲鳴、全てがごった煮状態である。男も女も立ち上がり、拳を突き上げ、口角から泡を飛ばし、凄まじい興奮状態だった。 (ブラックボルト! ブラックボルト!)  大歓声は黒いコスチュームの2番車を連呼し始めた。 (ブラックボルト! ブラックボルト!) (グリーンサタン! グリーンサタン!)  対抗人気のグリーンサタン号を応援する声も大きい。  ブラックボルト号を操るムラカミ・シンザンは、観客の興奮と期待を感じていた。  ハンドルを握る腕にパワーが充填された。太腿の電子層筋肉が硬く緊張している。  ペダルを踏む回転力が瞬時にマックスに到達した。  重力を無視したような加速だった。  まさに黒い電光だった。  あっというまに、前団の自転車を抜き去った。後続車を大きく離しての1着ゴールである。  ブラックボルト号、999連勝。1000勝まであと1勝。  積み上げた獲得賞金総額は百億クレジット。地球時間換算で500年は遊んで暮らせる金額だった。  
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