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いくつもの夜が過ぎ去ってはやって来て、それでも彼らはわっちの夜を漂流する。
過ぎ去る季節は何かを残すが、それがめまぐるしく変わるのでわっちの記憶には何も残りゃせんかった。
「時代かねぇ…。」
すすきの葉を口にくわえて零崎流識はため息を漏らす。
歳を語る彼は全くもって年を重ねていなく、だからこそ彼はずっと蛙にならずにおたまじゃくし出いたのだろう。
「兄ちゃん、稲葉村はこの先さよ。」
軽トラを運転するおっちゃんの声でやっと、わっちは空から目を離すことになった。
月夜照らす晩、わっちが一人農村地域を歩いていると声をかけてくれたご老体がこのおっちゃんだった。
夜道に一人街灯もないこんな田舎道を歩くのは危ねぇと軽トラの荷台に乗せてくれたのだった。
「しっかし、こげぇな村に用とは。兄ちゃん知り合いでもいるんか?」
わっちによく飛んでくる質問のひとつがそれだ。
「おっちゃん、野暮だねぇ。そんな事聞くなんざ、いただけねぇよ。」
「しかしなぁ…。ここはなんもねぇぞ。泊まる場所も見て回るような場もねぇ。あるんは田んぼや畑ぐれぇなもんだ。」
困ったようにおっちゃんが言うものだから、わっちも答えなきゃいけねぇか。
すすきの葉をぺっと車の外に捨てると、流識は起き上がって運転席に目をやった。
「わっちには用はないんだが、用の方がわっちにやって来るさ。」
「ん?どういうことよ?」
「さぁねぇ。行ってみねぇことにゃわっちにも分からんよ。」
行き先なんてどこだって同じだった。
彼には何の考えも用もなく、ただただ漂流するような旅だけがあるだけだ。
零崎一番の変わり者、そして零崎一の通り魔の彼には何の考えも用事も場所さえも何もかもが漂流しているだけだった。
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