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「稲葉村、本当になんもないとこだな。」
あらためて見ると家こそあるが固く門は閉まっているようでよそ者を受け付けない感じがひしひしと伝わって来ていた。
作物が実る田畑にはそれなりに立派なものが実ってはいて、月夜の晩でもそれは確かに分かるものだった。
「おっちゃん、サンキューな。」
軽トラに乗ったままのおっちゃんは「ん?」とこちらを見ると眠そうな声で答える。
「ほらな、なんもねぇ。この村は死んだ村よ。村おこしなんざ考えもしねぇから人は減るばっかで外とも繋がりを持たねぇ。時期に無くなる村さ。」
「いいねぇ。なくなる村の最後に立ち会えるなんざ、最高のクライマックスじゃねぇか。わっちの最後を飾る舞台にゃ、ちと物寂しいがそれでも全然良き良き。」
助手席でごそごそとし始めたおっちゃんはなんも聞いていないようで、無反応な対応に少し嫌悪したがまぁいい。
ここなら追っ手も来やしねぇだろう。
しばらく、ここで厄介になるか。
「なぁ、兄ちゃん。どこか泊まる場所あんのか?」
まだ助手席で何かをしてるおっちゃんは興味無さそうに、社交辞令のように言ってくる。
わっちにはそれはそれは悲しいことで、でもその悲しさなんざ全部嘘で、全てが嘘で作られたわっちにはどうにも感情があまりない。
「まだ泊まる場所はないけど、まぁ見つけるさね。」
笑って軽トラを振り返るとおっちゃんは拳銃をこちらに向けていた。
ごそごそやってたのはこれかぁ。
「探してたのはそれだったんで?」
「助手席にしまい込んだままだったから探すのが大変でなぁ。兄ちゃん、あんた運が悪いわぁ。」
はははっと笑うわっちにおっちゃんは驚いたようだった。
運が悪いと来た。こいつは予想外、予想がわっちの外に出ちまった。
「夜道でラッキーにも軽トラに乗せてくれたじゃねぇかよ、おっちゃん。そのわっちが運が悪いって…ははっ。そりゃないぜ。わっちは運が良いことで評判なんよ?」
「んだよ、兄ちゃん。そんなことかぁ。そりゃあんたがあんなとこにいなきゃ拾いもせんかった。あんな死体埋めの近くにな。」
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