コートの男

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「ちょっと待ちなさいよ」 私は去っていく男に追いついた。そしてこちらに、向きを変えさせた。 するとそこには別れた夫がいた。 「よ、よう。久しぶり」 「久しぶりじゃないわよ。何してるのよ」 「いや、クリスマスだから良太に何かプレゼントしてやりたくて」 「だったらなんでドアの下に置いて何も言わず帰っていくのよ」 「いや、なんかチャイムを押したら急に怖気づいちゃってさ。アハハハ」 この人はこういう人だった。臆病で腑抜けでどうしようもない人だった。なんでこの人と結婚したのかもう覚えてすらいない。 「や、やり直さないか。俺たち。俺借金返し終わったんだよ」 いまさら何を言っているんだと思った。 「私にはもうその気はないから、じゃあね」 悲しげな顔を背に家に帰ろと向きを変えたが、一つ言わなければならない事があってまた、元旦那の方に向きを変えた。 「それと昨日の良太の手袋見つけてくれてありがとう」 このお礼だけ伝えたかった。 「昨日って、なんの事だ」 それを聞いた瞬間消防車が私の横を過ぎ去っていった。ふと嫌な予感がして、家の方角に目をやると大きな火柱が見えた。
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