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「待っててあげようかー?」
きみは冗談めかして言った。そして、どうして自分はこういうしゃべり方しかできないんだろう、と思った。もっと素直に照れるか、それが無理ならバッサリ切り捨てて立ち去れればいいのに。
「うん、待っててあげて」
前カゴからエナメルバッグを出すのに手間取っている悠介が便乗して笑った。「ねえ、これ、抜けないんだけど」―きみはあきれて笑い、一緒にバッグを取り出すのを手伝った。
「はー、ありがと、助かった」
やっと出せると、悠介は照れたように笑って礼を言った。これだよこれ、ときみは思う。こんなふうに、素直にお礼を言える人間に生まれたかった。
「階段、だいじょうぶ?」
「もう二週間目だから。慣れた」
「そう?」
悠介は気をつかってきみのショルダーバッグを持ってくれた。そんなふうに助けてくれるひとをきみは知っていた。「ごめんね、リュックで来ればよかったね」―ほんとうは、ありがとうって言いたいのに。
「いいよ、べつに」
悠介は笑って言った。それはとても屈託のない笑顔だった―から、きみは余計に素直な言葉が喉につっかえてしまうのだった。
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