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「課長・・・、あの、これ・・・」
2月14日バレンタインデー、仕事の鬼、山形洋平(やまがた ようへい)39歳独身の前に部下の美咲が現れた。小柄で長い黒髪、ちょっと抜けてる妹系。
「ん?」
苦い顔の山形は差し出された小箱を受けとった。
「チョコです・・・」
顔を真っ赤にした美咲が、「食べてください」とつぶやいてうつむく。
「チョコだと・・・」
山形がギロリと美咲をにらみつける。びくっと体を震わしながらも、美咲は「お願いします」と頭を何度も下げた。山形は乱暴に包み紙を破り捨て、無造作に手作りチョコであろう物を口の中に放り込んだ。
「ん、・・・」
期待に胸を膨らませた美咲が山形を見つめる。
「うまい・・・」
不愛想な山形の表情が若干緩んだ。
「やっっった~~~~~」
「待ちなさい!!!!」
美咲の喜びが爆発すると同時に、大声で女が部屋に入ってきた。
「選ばれるのは私」
その女は美咲のよりも一回り小さな小箱を山形に手渡した。
「これは?」
山形は「まさか」とは思いながらも、突然現れた同期の愛子をにらみつける。同い年ながら、歳を感じさせない若々しさがあり、その美しさは社内でも評判が高い。
「本命のチョコよ」
「本命って・・・」
「ずっと一緒にいた私だから洋平のことはよくわかっているの。きっとあなたは私を選ぶ」
「いらない。返す」
呆れた顔してチョコを突き返す山形に、愛子はすがるように言った。
「ダメ。お願い食べて」
「愛子先輩、山形先輩は私のを美味しいって」
「おだまり!」
「ひどいです~」
ギャアギャアとうるさい二人に呆れながらも、山形は愛子のチョコを食べようと小箱を開けた。そこには、日本酒を飲むための、
「これ、おちょこ・・・?」
「そう、おちょこでおチョコ」
「バカじゃないの?」そう、山形が言おうとしたとき、社長のミズキが入ってきて懐から何かを取り出した。三十代で父の跡を継いだ女社長だが、面倒見の良さで周りに慕われる年齢不詳の美女である。
「動かないで」
山形の目の前には何かがあった。(チョコ?)と直前の経験からそう思ったが違った。山形に突き付けられたのはチョコではなく拳銃だった。賑やかな空気が一変する。がしかし、仕事一筋の山形の顔色だけは変わらない。
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