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目当ての漫画を一目散に購入して手持無沙汰になってしまったので、棚を吟味する智冬の後ろを着いて歩いていたのだが、新刊の推理小説を一冊抜き取り、そのまま流れるようにして参考書のコーナーに吸い寄せられていった智冬の姿はひどく遠いもののように感じた。すでに横たわっている溝を更に深め遠ざけるであろう紙と文字の塊が、いま目の前でゆらゆらと揺れる袋の中に収められていると思うと、さながらその袋がまがまがしいパンドラの箱のように思えて仕方がないのだ。
智冬が参考書に書かれている知識をすべて飲み干した後、この冷たい顔をした友人は、希望を見付けるのだろうか。自分を置き去りにして掴む、彼だけの希望を――――。
照明を落とした部屋で、テレビだけが明滅している。テーブルの上に広げたつまみやお菓子がいくつかと、ビールの空き缶。ぞんざいに放られたレシート。智冬の部屋がこれほどまでに生の呼吸を感じる生活感にあふれたことはなかったはずだ。少なくとも、貴光は知らない。いつも潔癖に整頓されていた部屋であったから、少しでも食べかけの菓子袋が置いてあるだけで妙な違和感を感じてしまう。
エンドロールを終えた映画が、暗く落ちる。
「続きは、また今度にするか?」
「そーだなあ。いま、何時? さすがに眠いわ……」
ふぁ、と大きな欠伸を隠す気もない貴光に、智冬は律義に「一時半だ」と答えた。さきいかを食みながらきょろりと首を回して時計を確認する。午前、一時四十三分。視線を動かす前に、四十四分に切り替わった。
子供のころから何作も発表されているSFアクションのシリーズ映画を、続けて二本観た。
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