【1】迫子貴光の妄執

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 襟足がシーツに流れたことによって無防備に晒されるうなじに、あたたかい息がかかる。ぞわぞわとしたやわい刺激がつま先からじんわりと立ち上る。抱きこまれるような形で腹に回された手の重みが気になって眠るどころではなく、覚醒した貴光をあざ笑うかのように時計の短針が巡る音と静かな呼吸音だけが暗闇の中で生きていた。  結局は、成人した男が二人、シングルベッドに二人で横たわっている。  さすがに深夜を過ぎれば予想以上に冷え、床で寝ることを自ら希望した智冬が音を上げた。気持ちよさそうにベッドで眠る貴光の体を壁際に押しやり、あたたかい布団に潜り込む。眠気に朦朧とする意識のまま、本能に任せて暖を求め友人の体を掻き抱いた。懐かしいような居心地の良いにおいを醸す首筋に鼻を寄せ、眠りの世界へと深く深くダイブする智冬から遅れること数分、慣れぬ体温に目覚めた貴光は飛び上がりそうなほどに驚き、狼狽した。 (え、え……?)  背後にぴったりと密着する大きな体、熱いほどの体温。少しの身じろぎさえ許さないと言わんばかりの拘束にたじろぐも、どうすることもできない。はなから体格差がある。偏食家で成長の遅れた小柄な貴光とは違い、好き嫌いもせず出されたものはすべて平らげる智冬とで純然たる差が生じるのは道理だ。  子供のように、はたまた恋人のように、固く固く抱き締められている。     
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