【1】迫子貴光の妄執

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 唯一の気の置けぬ友として楽しい時間を過ごす一方で、智冬の立ち振る舞い、出で立ち、存在そのものに劣等感を刺激され続ける貴光にとって、小さなソファで並んで映画鑑賞をしている間でさえその例外ではなかった。つらい過去を背負った登場人物について、智冬が単純な感情移入だけではなく思慮深い考察によってキャラクターの内情を代弁して感想を述べたときなんて、いっそ直情的にしか物語を追っていない己を恥じ入った。  指揮官不在の中、基地に籠城する敵軍を攻めあぐねている映画の中のキャラクターたちに、短絡的に『作戦なんて無視して進軍してしまえ!』と貴光は言い切った。対して智冬は、『ブレーンがいないのに突発的に進軍するなんて自殺行為だ』と評した。結果、無理やりに進軍した主人公一行は壊滅的な損害を受けて撤退する羽目となったのだが、尻尾を巻いて逃げ帰るその後ろ姿は、“お前の主張なんて浅はかも浅はか。智冬がすべて正しい”と暗に告げているようで、貴光はひどく慚愧して膝の上の握りこぶしに爪を食い込ませた。  いつだって智冬は貴光に“正”を見せつける。冷たい顔で、素知らぬ顔で。そしてその底なしに深い色の瞳に忸怩たる心情を見抜かれているような気がして、輪をかけて貴光の劣等感を煽るのだ。  すり、と耳裏に鼻をこすり付けられる感触がしてすくみ上った。ひ、と情けない息が漏れ、慌てて両手で口を塞ぐ。 「ん……」     
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