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貴光と智冬は、小学生のころに出会い、友人となった。たまたま隣の席となり、給食で出た七夕の七色ゼリーの上に載っている飾りのグミを交換したことがきっかけだった。貴光の方に配膳されたゼリーには星の形を象ったグミが乗っかっており、智冬の方には三日月を象ったものが乗っていて、
「星のかたちをしたものは、星野くんが食べるほうがいい」
というよくわからない理由を付けて、幼い貴光は星野智冬の小さなカップの月の隣に、プラスチックのスプーンで掬い上げた星を飾った。智冬はその当時から白く冷たそうな瓜実顔をしていたが、貴光の思い付きの好意を能面のようにしらっとした表情で一瞥し、
「お返し」
と、表情に負けない冷たい声でおざなりに声を漏らして、星の隣で小さく縮こまっている月のグミを貴光のカップに落とした。
きっかけは、そんな小さなことだ。星と月が、机と机との間を飛び交っただけの正午。子供ならではの、戯れの交換。無邪気で無垢な思いやり。
入り口は一つなのに、出口はてんで別の方向に分かれていたなんて、そんな結末が待っているとも知らない貴光がはじめて“差異”を感じたのは、晩秋と初冬の境が曖昧なきらきらとした中学校の体育の授業だった。
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