【1】迫子貴光の妄執

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 すっかり下半身の高揚は落ち着いているというのに、触れそうな距離に横たわる智冬の濃いにおいに何振りかまわず抱き着きたくて仕方がない。大きい体にすっぽり包まれて、大声でわんわん泣きわめきたい。こんなにも堕落してしまった自分を、将来もなにもない無価値な自分を抱きしめて叱って包み込んでほしい。それができるのは、それをしてほしいのは、幸せになることを許せはしないはずの智冬だけだ。  光に向けられているそのつま先が、暗がりにいる暗澹とした自分のほうへと向き直ってくれたのなら――――、そしたらきっと、こころから少しの隙もないほど大好きになれるのに。  同じ位置にいてほしい。同じ場所で同じ暗闇を見ていてほしい。貴光はそんなことを取り留めもなく考えながら、そしてようやく追い求める闇の中で眠りに就いた。
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