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人並みに“楽しい”や“哀しい”といった起伏はもちろんあったものの、それを表に出すことが苦手で孤立していた智冬に差し出されたまがい物のお星さま。それを齎してくれた貴光がどれほど光り輝いて見えたことか。ゼリーにまぶされた白い砂糖がきらきらと瞬いて、夜空にちりばめられた一等星たちよりよほど眩しく見えた。内心胸を暴れさせながら月のゼリーを貴光に捧げたのだが、智冬はひそやかに、彼に似合うのは月ではなく、燃えるような情熱の象徴たる太陽だと確信していた。
その日から、智冬の頭の中は貴光のことでいっぱいになった。気さくに話しかけてくれる貴光の背後に太陽が差し掛かったとき、まさしくその姿こそが後光差す神として智冬の瞳には映ったのだ。
(ぼくは一生、迫子くんについて行こう)
幼い智冬の一生に及ぶ大決心は、静かな炎として瞳に宿った。
クラスの人気者として、周囲の子らと団子状になって体育館へと走って行く貴光たちの塊から少し離れたところを追いかける智冬の姿は、きっと貴光の目にも止まっていただろう。しかし、智冬にあまやかな声がかかることはなかった。
「ちふゆくんは、いつもたかくんの後を着いて歩いているけど、一緒に遊ばないの?」
「……ううん、見てるだけでいい」
純粋に問うてきたクラスメイトにうつむきながらぽつりと返す智冬の瞳に嘘偽りはなかった。貴光が土日の約束をクラスメイトと取り付けている時も、近くでじっとその会話を聞いて満足していた。自分まで約束した気になって、休日に父親の大きないびきを伴奏に、酒瓶を箸で打って誰にも届かない演奏をどこで遊んでいるかも知らない貴光に捧げて過ごす時もあったほどだ。
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