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犬が鳴らすような高い呼吸音で貴光は小さく喘いでいる。布団の中でごそごそと手を動かす衣擦れがして唾を飲み込んだ。緊張した腕の筋肉が収縮し、貴光の腹に回した手に力が入った。期せずして膀胱を押し上げるかたちになりすこし焦る。
「ぃ、あ……っ」
しかしその圧迫が善い刺激になったのか、首を反らせながら一層高い声を漏らした。
熱く昂ぶる股間に悟られないよう、智冬は慌てて腰を引いて慎重に貴光の状態を見極める。向こうを向いているので表情は見えないが、きっとだらしのない顔をしているのだろう。よだれのひとつでも流しているかもしれない。
(いま、手を伸ばせば……)
このまま腕を引いて驚く表情を余すことなく瞳に映し、詰る言葉ごと暴いて引きずり出して、ひどい手管でかわいそうな友人を束縛し、思いのまま快楽を植え付けることができたのなら。
広がる暗い欲求に飲み込まれそうになり、奥歯を噛んで胸の中の獣を押さえつけた。
「貴光?」
自分でも、驚くほど平静な声が出せたと思う。こころは昂ぶって仕方ないのに、熱い息が漏れているのに、声音だけは冷たい。この平坦すぎるほどの口調にいまは感謝をすることにした。
「具合でも悪いのか?」
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