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それに比べ、智冬のなんと至誠窺える出で立ちか。ブランドものではない、安い服ではあるが小物とまとめてセンス良く着こなしているため、淡白な顔立ちと相まって質素ながらも清潔感があり、この上なく見栄えが良い。毛玉一つなく、きちんと洗濯された良い香りも醸されているし、アイロンまでしっかりかけられているという徹底ぶりだ。紺色に白いラインが入ったシンプルなマフラーも、その色味が彼の白く細い顎を引き立てている。
己のへしゃげた姿と凛とした友人の姿を見比べてシュンとする貴光に、智冬はそんなことかとため息未満の呼吸を漏らした。
「べつに、いつものお前の恰好だろう。今更、なんだ?」
「ンー、そうだけどさ」
“私、だらしない格好で外出をする空気の読めない男って、嫌いなの”
そう言って、貴光は少し前に数週間だけ付き合った彼女にフラれたばかりなのだ。大体、いつもそうだ。このだらしなさに大抵の女性は、ひと月と待たず愛想を尽かし、消え去ってしまう。おかげでチャラついた見た目に反し、貴光はこの歳まで童貞を貫いている。
もじ、と袖に指先を隠してしまう情けなさすぎる姿が惨めだ。
「俺は気にしないけど。そういうラフな格好してくれていたほうが、気を遣わないし。正直、ありがたいと思っている」
「そ、そっか! へへ、ならいいや。なあ、どんな本を買いに行くんだ?」
照れくさそうに笑う紅い頬を一瞥し、智冬は一瞬だけ視線を宙にやり、しかしすぐに真向かいの楽しげな表情を真摯に捉える。
「参考書。勉強しないといけないから」
「へ? なんで?」
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