それからの日々

3/24
前へ
/111ページ
次へ
「今日は『おはよう』がないんだな。なんか忘れ物をしたような変な気分だ」 道弥がぼそりと呟いた。それを言いたいのは、俺だ。毎日毎日飽きもせずに「おはよう」と「気をつけて」を繰り返し、10日を過ぎた今日パタリと止まった。 いつもあった物がなくなると、本当に変な気分だ。渡り廊下に視線を向けても、いつものにこやかな姿はない。 ━━願い通りになったのに、いざなくなると寂しく感じるなんて勝手なものだな。 自分に呆れながら教室に入り、気持ちを切り替えて何とか1日を普通に過ごした。 予想通りだが、帰りも挨拶がないとやっぱり気になってしまう。 「葛城にも何か事情があったのかもしれないから、あんまり気にするな」 昼休みに道弥がなぐさめてくれたが、心の中では色々思っていただろう。この10日あまり、挨拶してくれる葛城に俺は無言で手を振るだけだった。本来ならちゃんと言葉で返すべきなのに、恥ずかしくて出来なかったんだ。 そんな相手に挨拶をするの、俺でも嫌になるから当たり前だな。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加