514人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日は『おはよう』がないんだな。なんか忘れ物をしたような変な気分だ」
道弥がぼそりと呟いた。それを言いたいのは、俺だ。毎日毎日飽きもせずに「おはよう」と「気をつけて」を繰り返し、10日を過ぎた今日パタリと止まった。
いつもあった物がなくなると、本当に変な気分だ。渡り廊下に視線を向けても、いつものにこやかな姿はない。
━━願い通りになったのに、いざなくなると寂しく感じるなんて勝手なものだな。
自分に呆れながら教室に入り、気持ちを切り替えて何とか1日を普通に過ごした。
予想通りだが、帰りも挨拶がないとやっぱり気になってしまう。
「葛城にも何か事情があったのかもしれないから、あんまり気にするな」
昼休みに道弥がなぐさめてくれたが、心の中では色々思っていただろう。この10日あまり、挨拶してくれる葛城に俺は無言で手を振るだけだった。本来ならちゃんと言葉で返すべきなのに、恥ずかしくて出来なかったんだ。
そんな相手に挨拶をするの、俺でも嫌になるから当たり前だな。
最初のコメントを投稿しよう!