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ため息をつきながら校門を出ようとした俺の肩を誰かがぐっと掴んだ。振り返ると、見知らぬ生徒が息を切らしながら立っている。
「間に合って良かった。君、高梨幸太君だよね。倭の片思いの。あのさ、悪いんだけどこれ倭に届けてくれないかな。君が行ってくれたら倭はすぐに元気になると思うから」
その生徒は一気に話すと、俺に紙袋を押し付けてきた。一応受け取ったものの、話の意味が分からない。
「あの、ちょっと待って。確かに俺は高梨幸太だけど、倭って………」
「えっ、倭だよ。葛城倭。知ってるよな?」
ああ、葛城は倭っていうのか……。前に聞いたかもしれないけど忘れてた。
「知ってる。あいつどうかしたの?」
「倭?」
俺が頷くと、「風邪で休んでるんだよ。担任からプリントを預かったんだけど、俺が届けるより高梨に行ってもらった方が喜ぶかなって思って」
「…………。で、あんたは?」
「あ、ごめん。俺は倭の友人の千葉直矢」
「志賀直哉?」
「千葉直矢だよ。昔からよくからかわれて………ってそんな事はどうでもいいから、とにかくよろしくな」
「ちょっと待て」と今度は俺が背を向けた千葉の肩を掴んだ。
「あんたが頼まれたんだろ?面倒だからって俺に押し付けるのはどうかと思うぞ」
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