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「高梨君……どうして………」
「お見舞いに決まってるでしょ」
答えたのはお母さんで、部屋をぐるりと見回してよしと頷いてから俺に「高梨君ゆっくりしていってね。コーヒー、紅茶?」と聞いた。
「あ、お構い無く……」
「やあね、子供は遠慮なんてしなくていいのよ。それとも甘いココアがいいかしら。外寒かったし」
甘いココアも魅力的だけど無難にコーヒーと答えると、お母さんはドアを閉めて出ていった。
「明るいお母さんだな」
「ごめん、煩くて………」
「いや、そうじゃなくてお前に似てる」
俺の一言が気に障ったのか、葛城が反論し出した。
「えっ、全然似てないよ。あの人は明るくてすごく社交的で人付き合いも上手くて………でも俺は料理好きなただの気の弱い男で……」
母親の悪口を言うのかと思ったら滅茶苦茶誉めてるし、それに自分を気が弱いって勘違いしてるし、葛城って変な奴だなぁ。気が弱い奴は公開告白なんか出来ないんだよって言ってやりたい。
「これ、あんたの友達から預かった。えっと……森だったかな?」
「森?」
あれ、森鴎外じゃなかった?夏目漱石でもないし。宮沢賢治 、川端康成……いやもう少しマイナーな感じの………そうそう。
「志賀だ。志賀直哉」
「………千葉直矢な」
「まあ、そんな名前」
「高梨君適当………」
じとりと睨む葛城をスルーして用件を伝えることにした。まずは。
「風邪は大丈夫なのか?」
お見舞いに来たからにはこれが最初だよな。
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