五年越しのチョコレート（バレンタイン・デー）

５

教室が少しざわついたが、悟りの境地の結菜は動じず本を読んでいた。

でも、どうもみんなの視線を感じる。

顔を本に向けたまま、視線を少し入り口の方（右前方）へ向けた、やはりみんなが自分を見ている。

（え？　何故？）

結菜は顔を上げた。
そこに隆が立っていた。

結菜は驚き、ビクッと反応し持っていた本を落とし、自分も椅子から半分落ちかけた。
「驚かせてごめん」隆が本を拾い上げ、手渡してくれながらながら、言った。
「あっ、ありがとう」本を受け取りながら言った。
そうだ、お礼を言わなきゃ。
「あの・・・、この間は」
そこまで言ったとき、隆がその言葉を遮って言った。
「これ、ホワイトデーのプレゼント。受け取ってくれないか。よかったら」通る声でハッキリと言った。
「え？」
「付き合って欲しい」また、ハッキリと言った。
周りから冷やかすような声が飛んだ。

結菜は呆然としていた。自分の身に何が起こっているのか理解出来ていなかった。きっと惚けた表情をしていたに違いない。
「ダメかな・・・」隆は、今度は自信なさげに少し声を落としていった。
「ううん、そんなこと無い。絶対無い。よろしくお願いします！」我に返った結菜は、慌てて立ち上がり、夢中になって叫ぶように言って頭を下げた。
「良かった！」
拍手が興った。