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結菜は、美人というわけではないが、普通にそこそこ可愛い大人しく目立たない女の子だ。 つまり、どこにでもいる女の子だ。 1つ年下の同じ学校にいる妹の玲奈は、とても美人で学校でも評判だ。結菜とは反対に明るく活発で、いつも人が集まってきて、その中心に居るようなイメージがある。 結菜は少しだけポッチャリしてる。 でも、代わりに胸はEカップある。 自分でもお風呂に入る時に鏡に映る膨らみや、ブラジャーを付けた時の谷間はとても綺麗だと思うのだが、言い換えればそれ以外に取り柄が無いとも言えた。でも、胸だけは自慢だった。 唯一自慢の胸も、それを見せびらかす訳でも無いので、男子から注目された事は無い。 いや、実は夏服になった去年の初夏、隣にいた男子生徒が「あれ、吉岡(結菜の名字)、おまえ意外に胸、大きいな」と言った。 その時、ようやく気がついたか、と思いつつ「えー? やだぁ」と言ったけど、周りにいた数人が「おお、そう言えば少し大きいかも」と頷いただけで 「それよりも、吉岡の妹、可愛いよなぁ。付き合っている人はいるのか?」 と直ぐに妹の話になってしまい、それ以降、話題になることは二度と無かった。 胸がそんなに武器になり得ないと判ったとき、いっそう、自分の存在感に自信が無くなった。 多分、明日から学校に来なくなっても、誰も気づかないに違いない。自分の存在感なんてそんなものなんだろうと思ってた。 そんな結菜が憧れていた隆に、ついにチョコレートを渡したのには訳がある。 結菜にしてみれば「清水の舞台」どころか「スカイツリー」から飛び降りる程の勇気を振り絞った。 今までの4回のバレンタインデー、隆を追いかけなんとか渡せないかとチャンスを伺っていた。 いや、正確に言うと中学2年まではチャンスを伺っていた。 でも、いつも、学校帰りに隆の後を追って(中学校は校則が厳しく学校内でチョコレートを渡すことを禁じていた)いると、隆の名前を呼びながら女子生徒の数人のグループが結菜を追い抜くのを見て、いたたまれなくなり、いつもその場を離れた。 それほど隆は女子生徒に人気があった。中学ではテニス、高校では弓道部に入り、その端正な顔と凜とした姿、それに持って生まれた統率力は女子生徒を惹きつけ、男子生徒も一目置いていた。
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