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玲奈は家に向かいながら、ある種の罪悪感に嘖まれていた。
隆さんだったんだ、結菜がずっと想い続けていた人は。
正直、驚いた。それが判っていたらけしかけなかっただろうか。
実は、去年、玲奈がチョコレートを渡そうとしたのは隆だった。
隆は「義理チョコならいくらでも。でも本気のチョコレートなら受け取れない。自分は付き合えていないが、ずっと好きな人がいる。付き合う気も無いのに、本気のチョコレートを受け取るなんて、気持ちを込めてチョコレートを渡そうとしてくれた人に失礼この上ない。だから、本当に申し訳ないが、受け取れない」と言った。
後で、隆は長い間、バレンタインに誰からもチョコレートを受け取っていないことが判った。
隆の誠意は判るが女の子にとってはショックだろう。
玲奈はスッキリしたが、結菜の事を考えたら無理に進めない方が良かったのでは、と少し後悔していた。いや、でも、いずれハッキリさせないと結菜の為にならない、そう思い直したが、やはり気は晴れなかった。
結菜を土手の方に送り出した後、帰りが遅いので気になって自転車で向かった。
そこに倒れた見覚えのある隆の自転車と結菜のチョコレートがその下敷きになって落ちていた。
でも、二人の姿は無かった。あわてて周りを見渡したときに、母親から結菜が救急車で病院に運ばれたと連絡があった。
チョコレートが落ちている。
結菜は受け取ってもらえなかったのだろう。
ショックのあまり飛び込んだ?
でも、どこへ?
土手から川には遠すぎてオリンピック選手でも飛び込めない。
逃げようとした?
そうだ、チョコレートを返されショックのあまり逃げようとして土手からすべり落ちたんだ。それで合点がいく。
そうに違いない。可哀想に、結菜。
チョコレートをどうしようか迷ったが、返されたチョコレートなら置いておくわけにいかない。
隆の自転車を起こしてその場に置き、チョコレートだけを持って、病院に向かった。そしてそっと病室の棚に置いた。
何と言って、結菜に声を掛けて良いのか判らず、逃げるように病室を抜け出した。
隆を恨む気にはならなかった。チョコレートを絶対に受け取らないという行為の賛否はあるだろうが、彼は常に誠実に行動してる。
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