First Shot : Rat

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First Shot : Rat

 A国 日本州 関東郡 ヨコハマ  工場が発する水蒸気が消えずに漂う早朝、4月の終わりだというのに色がなく冷たい海岸沿いの倉庫街。静かなその場所に一人、女が立っていた。  光沢のある赤いレザー生地のジャケットとスリットの大きいタイトスカート、小さな顔の半分を覆うような大きなサングラス、ブロンドの長い髪。これら鮮烈な色彩はコンクリートの中で警戒色となっていた。胸には意匠のようにリボルバー拳銃がホルスターに収まっている。その銃の名前は「Peace Maker」。   黒革の厚底ブーツを履いた足を肩幅に開き、何もせず立っていた彼女の髪が揺れた。  足音が辺りに響き始めた。コンテナの横、倉庫の窓や間の路地に影がうごめく。  しばらくするとまた静寂が場を包む。  口火を切ったのは紅の薄い唇。 「I hate Rats!」  両の袖からするりと出てきた黒い棒を掴む。それを勢いよく振りかぶってにして前方へと突き出すと、それは折れ曲がって拳銃へと変形した。  黒い作業服の男が自動小銃を構えてコンテナから出てくると、すかさず彼女へ発砲。  弾丸は倉庫の壁にあたって火花となる。もう彼女はそこにいない。  まるでフィギュアスケートのように歪な体勢で撃ち返し、男は銃弾に倒れた。それを皮切りに物陰から自動小銃や拳銃、散弾銃を持った男たちが湧くように次々と出てくる。  時にはバレエの連続回転(フェッテ)で弾をばらまき、ブレイクダンスのように宙返りを決めて弾を避ける。フラメンコのポーズを模して撃ち切った拳銃を捨てるとまた袖から黒い棒が出て、それを拳銃へと変貌させる。  乱れて空中を漂っていた金髪が彼女の背中に寄り添うと、倒れる男たちの中で彼女はまた、たった一人で倉庫街の真ん中に立っていた。その目は哀れな男たちに一度向けられ、すぐに目を閉じる。そして、かっと開くと真上を睨む。
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