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「では、どれだけ現実と浮きあえているか。撮られたもので判断してみます。そのデジカメをほんのちょっとだけ返してもらえますか」
美幸の肩が痙攣≪けいれん≫でもするように震える。
「すみません。記録媒体を入れてくるの、忘れてました。また今度でいいですか」
「今撮ってたじゃない」
「……はい。いやその、今、気が付いたんです。いやー、もったいなかったなー。いろいろ撮っていたんですけど」
カウンセラーへと向き直るが、手とそこに握られたデジカメは腰の後ろへ。スロットルにはメモリーが挿入されている。後ろ手にひっくり返った画面には、今しがた撮った絵が表示されている。
向かい側に見える2階の図書室、その窓辺に座って本を読む勇ガラントの姿。
眠そうに垂れた細い目。薄く小さな唇。その慎ましく大人しい顔に不釣り合いの極短髪と豊かな胸囲。文庫を読むには窮屈そうな肘を着いた体勢。
それを見下ろす三幸の顔は、おもちゃ屋の前でほしいおもちゃを眺める子供のように物欲に満ちた屈託の無い笑顔だった。
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